持続化補助金「賃金引上げ枠」の急所を突く!-賃金台帳のご用意を-

持続化補助金には、補助枠が最大200万円(2023年度はインボイス特例により最大250万円)にアップする特別枠がありますが、これらのうち、「賃金引上げ枠」は比較的申請の間口が広く、多くの事業者が活用できる可能性があります。

 

(持続化補助金「賃金引上げ枠」の補助上限額と補助率)

補助上限額  200万円 (インボイス特例により、+50万円 
補助率  3分の2 (赤字事業者は4分の3) 

そうはいっても、誰の賃金をいくら引き上げればよいのか、またどのような書類を準備すればよいのかなど、賃金引上げ枠の制度は分かりにくく、我々コンサルティング・ビジネス研究会(Consultria,CB研)にも多くの問い合わせが来ています。

そこで、このコラムでは、賃金引上げ枠を活用する上でのポイントを細かく解説しますので、ぜひともお役立てください。

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目次
1.持続化補助金「賃金引上げ枠」の申請時に必要な書類(賃金台帳など)
2.持続化補助金「賃金引上げ枠」に申請するための条件
3.持続化補助金「賃金引上げ枠」実績報告提出時の手続き
1.持続化補助金「賃金引上げ枠」の申請時に必要な書類(賃金台帳など)

 賃金引上げ枠の申請時には、持続化補助金の申請そのものに必要な書類(事業計画書等)の他、追加で以下の書類が必要です。特に賃金台帳などは取りそろえるのに時間がかかることもありますので、早めの準備をお願いします。 

 

・誓約書(様式があります) 

賃金台帳(直近1ヶ月分:正社員分だけでなく、役員・専従者(※1)を除く全従業員分(パート・アルバイトを含む)の提出が必要) 

・1日の所定労働時間、年間休日が記載された書類の写し 
(例)雇用契約書、労働条件通知書等 

・(赤字事業者として申請する法人のみ)法人税申告書の別表一・別表四(※2・※3) 
 ※1  配偶者など、個人事業主と同居の親族で事業に従事する方を指します。  

 ※2  それぞれ以下が記載されています。 
  別表一=法人税をいくら支払うかの計算結果 
  別表四=法人税のベースとなる所得の計算結果 
 ※3 個人事業主の場合は追加書類不要です。 

 

 このうち賃金台帳には、以下の項目を全て載せておく必要があります。 

・氏名 

・性別 

・賃金計算期間(賃金を計算する開始日から締め日までの期間) 

・労働日数 

・労働時間数 

・時間外労働の労働時間数 

・休日労働の労働時間数 

・深夜労働の労働時間数 

・基本給や手当等の種類とその金額 

・控除項目(所得税・住民税・社会保険料など)とその金額 

 

2.持続化補助金「賃金引上げ枠」に申請するための条件

 賃金引上げ枠に申請するためには、持続化補助金の基本的な条件(小規模事業者であることなど)のほか、以下の2つの条件を満たす必要があります。 

 

職場(お店や工場など)で働く労働者のうち、直近1ヶ月の賃金を時給換算した金額が最も低い人について、その金額(事業場内最低賃金)が、 

① 申請時点で、地域別最低賃金以上であること  

② 補助事業終了時点で、地域別最低賃金+30円以上であること 

(申請時点で既に地域別最低賃金+30円以上の場合は、さらに+30円以上引き上げること) 

 

1)対象にはパート・アルバイトを広く含む 

ここでいう「労働者」には役員・専従者を除くすべての労働者が含まれます。短時間のパートやアルバイトなども対象です。 

※持続化補助金の対象である、小規模事業者かどうかを判断する際の基準(短時間のパートやアルバイトは原則として従業員数にカウントしない)とは異なります。 

 

2)働く人全員の賃金を時給に換算する 

 事業場内最低賃金の計算を行う際、日給・月給等で働く人については、賃金の支払総額(計算の対象となるもののみ)を所定労働時間(※)で割って、時給に換算します。 

計算の対象  基本給、役職手当、職務手当等 
計算の対象外  賞与、時間外勤務手当、通勤手当、家族手当など 

※労働契約や就業規則などで定めた標準的な労働時間のことで、時間外労働や休日労働等を含みません。 

 

(例)東京都杉並区のX株式会社が経営するY美容室で働くAさんの場合 

(7月分給与の支払) 

基本給  160,000円 
職務手当  15,000円 
時間外勤務手当  30,000円 
通勤手当  10,000円 
合計支給金額  215,000円 

(労働条件等) 

・所定労働時間/日:8時間 

・年間労働日数  :240日 

・東京都の最低賃金(地域内最低賃金):1,072円 

 

 この場合、以下のように計算します。 

 計算の対象金額①=基本給160,000円+手当15,000円=175,000円 

  (時間外勤務手当・通勤手当は計算の対象外) 

 月間平均労働時間②=8時間×240日÷12ヶ月=160時間 

 時給換算額=①÷②=1,093円 

 同様に、Y美容室で働く人全員(但し社長は除く)について、給与の時給換算を行って比較した結果、最も時給換算額が低い人の金額が、Y美容室の事業場内最低賃金になります。そして、例えばAさんの時給換算額1,093円がY美容室の事業場内最低賃金であるとすれば、東京都の最低賃金は1,072円なので、地域内最低賃金を上回り、「賃金引上げ枠」の条件①を満たします。。 

 

3)申請に必要な賃金の引上げ幅と負担増を想定しておく 

 さらに「賃金引上げ枠」の条件②を満たすためには、先ほど計算した事業場内最低賃金に30円以上を加算して、地域別最低賃金+30円以上にする必要があります。 

 

 時給換算で+30円ということは、月100時間勤務のパートであれば、月3,000円の負担増になります。これだけ見れば負担増はそれほどでもないように見えますが、同様の条件のパートを10人雇っているとすれば、年間にすると3,000円×12ヶ月×10人=360,000円の負担増になり、その分補助金が目減りすることにもなるので、意外に軽視できません。そのため、賃金引上げ枠の申請の際には、賃金引上げによってどのくらい負担が増えるかを事前に見積もっておけば安心です。 

 

 また、賃金引上げは補助事業終了時点(店舗の改装やチラシ配布など、補助金の申請時に「やる」と言ったことを終えた後)には必ず完了しておく必要があります。この時点で賃金の引上げができていない場合、補助金を受け取れなくなりますので、注意が必要です。 

 

4)当期黒字でも補助率が4分の3になる場合がある 

 冒頭で、「赤字事業者は補助率が4分の3」と書きましたが、「赤字事業者」の条件は以下の通りです。 

法人  直近1期分の法人税申告書の別表一 ・別表 四 「所得金額又は欠損金額」欄の金額がゼロ以下であること 
個人事業主  直近1年間 の「所得税および復興特別所得税」の「確定申告書」第一表の「課税される所得金額」欄の金額がゼロ以下であること 

 こう書くとわかりにくいのですが、要は、法人税ないし所得税の計算のベースとなる所得金額がゼロ以下であれば、補助率が4分の3になるということです。そうであれば、決算上は黒字であっても、 

 ・過去に繰り越してきた赤字分を相殺した 

 ・個人事業主の場合は基礎控除・社会保険料控除などで所得が相殺された 

等の理由で、所得金額がゼロ以下になることは大いにあり得ますので、賃金引上げ枠を申請する際は、自社が赤字事業者かどうか、確認することをお勧めします。 

 なお、赤字事業者として申請するには、1期分の決算を終えていることが必要なので、創業直後の事業者は、赤字事業者としては申請できません。 

3.持続化補助金「賃金引上げ枠」実績報告提出時の手続き

持続化補助金を受け取るためには、補助事業で行った販路開拓の内容とその成果を報告する「実績報告書」や各種証拠書類(請求書や銀行への振込依頼書など)等を事務局に提出し、承認されることが必要です。 

あわせて、賃金引上げ枠の場合は、以下の2種類の書類も提出しなければなりません。特に②は、補助事業終了時点できちんと賃上げができていることを示すうえで重要な書類です。 

① 賃金引上げ枠に係る実施報告書(様式があります) 

② 直近1ヶ月分の賃金台帳 

  

実績報告書等は事務局が決めた締切日までに提出する必要がありますが、実際には補助事業のことで頭がいっぱいになり、実績報告や賃上げのことを忘れてしまうことがよくあります。この場合、賃上げが間に合わないと、補助金がもらえなくなることもありますので、スケジュールをよく確認して、早めに賃上げを済ませることをお勧めします。 

執筆者

多賀 俊二(中小企業診断士)

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