新型コロナウイルスが指定感染症5類に移行となり、入国管理の規制も緩和されてきました。今後はいっそう経済が活発になることが期待されます。
しかし、「ゼロゼロ融資」の返済が始まったことにより、多くの中小企業には月々の返済負担が重くのしかかっています。
「コロナ借換保証」の制度も運用が始まっていますが、業績が回復していない企業は利用が難しいようです。
一方、経営者等の個人保証に頼らない融資を普及させるため、金融庁は「経営者保証改革プログラム」(以下、改革プログラム)を始めました。改革プログラムの活用により、中小企業の経営者が保証人としての責務から解放されることが期待されます。
筆者は日本政策金融公庫に26年間勤務し、3万件の融資審査を経験しました。
その後2011年に独立開業し、起業支援や資金調達の支援を行っています。
今回のメルマガではこうした経験を踏まえ、改革プログラムを活用して、中小企業が経営者保証なしで借入をするためのポイントをお伝えします。
1.「経営者保証改革プログラム」とは
2.改革プログラムの内容
3.経営者保証の要否の判断ポイント
4.改革プログラムの課題について
「経営者保証改革プログラム」は、経営者保証に依存しない融資の普及と定着に向けて、金融庁が推進しているものです。
従来、金融機関から法人へ融資する際には、当然のように経営者(代表者)を連帯保証人にしてきました。
経営者は連帯保証人としての重い責任を背負わされてきました。また、この経営者保証を求める慣習に対しては
・創業時や、新たな事業に必要な資金の借入が困難になる
・事業承継や事業再生が円滑に進まない
といった弊害が指摘されてきました。
こうした問題の解決に向け、2014年には「経営者保証に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)の運用が始まり、経営者保証を不要にするための条件が定められました。
しかしガイドラインは中小企業・経営者個人・金融機関共通の自主的なルールに過ぎないので、金融機関の現場では融資の際に経営者保証を求める慣習が続いてきました。
その結果、多くの中小企業の経営者は依然として連帯保証人の責務から逃れられないのが実情です。
これに対して今回の改革プログラムでは、経営者保証のない融資を金融機関に進めてもらうための取組が数多く盛り込まれています。以下、詳しく説明します。
◆金融機関に「保証の必要性」に関する説明を求める
改革プログラムでは、金融機関が経営者等との間で保証契約を結ぶ際に、保証契約の必要性等について、以下の説明をすることを求めています。
・どこが不十分なので保証契約が必要なのか
・どのように改善すれば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか
◆金融庁に「経営者保証ホットライン」を設置
また金融庁は、「銀行が経営者保証に関する説明をしてくれない」といった保証人の声を聞くため、情報提供窓口・相談窓口として「経営者保証ホットライン」を4月3日に開設しました。
(0570-067755、平日10時~17時)
このホットラインは金融機関と保証人の間のトラブルは解決しませんが、ホットラインに寄せられた声を金融機関にフィードバックすることで、金融機関の対応が改善されることが期待されます。
◆経営者保証に関する取組方針の公表を求める
金融庁は昨年12月に、経営者保証に関する取組方針の公表を、金融機関や関係団体に求めました。
① 金融機関は、ガイドラインに基づいた融資を浸透させるための方針を作り、対外的に公表すること。
② ①の方針は、金融機関と経営者のコミュニケーションに活かせるよう、具体的でわかりやすい内容にすること。
③ 金融機関は①の方針で業務を行うよう、現場に徹底すること。
ガイドラインでは、経営者保証を求めない条件として以下の3つを示しており、改革プログラムでもこれらが重視されています。
(1) 法人と個人の一体性の解消
法人と経営者個人のお金が区別されていない企業は、経営者保証が必要になります。
特に経営者への貸付金や仮払金などが多い企業や、事業に使う工場や車両を経営者が所有している場合等が当てはまります。
これらを解消した企業には、経営者保証を求めないことになります。
(2) 財務基盤の強化
経営者保証を外すには、借入を返済できるだけの内部留保または利益を確保する必要があります。
特に債務超過の場合は、「近い将来、債務超過が解消されるかどうか」が要否の判断ポイントになります。
(3) 財務状況の適時適切な情報開示
決算の時だけではなく、定期的に財務状況を金融機関に対して報告することが重要です。
そのためには、月次の試算表等を金融機関へ提出するとともに、経営状況や事業計画について説明することも有効です。
◆財務内容に問題がある企業は経営者保証を外せない
中小企業が、経営者保証なしで融資を受けられる可能性が高まるという意味では、改革プログラムはとてもよい政策といえます。
しかし、上記で示した3つの条件を満たせない企業は、経営者保証を求められるか、借入できない可能性があります。
◆信用保証協会の要否の判断もポイント
中小企業の多くは、信用保証協会付きで借入をしています。
そのため、経営者保証なしでの融資を利用するうえでは、信用保証協会の審査や判断もポイントになります。
例えば、東京信用保証協会のホームページでは、経営者保証を不要とするための条件を載せています。
中小企業が信用保証協会付きの借入をする際には、こうした条件に当てはまるかについても確認すべきです。
◆中小企業側の課題
中小企業にとっては、ガイドラインの活用により、経営者保証なしで借入できる可能性が高まります。
特に事業承継を予定している企業は、後継者が連帯保証の責務を負わぬよう、金融機関に働きかけることが重要です。
一方、経営者保証を不要とする3つの条件を満たしていない企業は、専門家への相談等により、財務状況を改善することが課題です。
特に会社(法人)と経営者(個人)のお金が区別されていない企業は、会社が経営者に貸したお金を返す等で、改善することが必要です。
コンサルティング・ビジネス研究会では、中小企業の皆さまに対し、財務状況の診断と改善に向けたアドバイスや、金融機関への説明資料の作成等も支援しています (URL参照)。
お気軽にご相談ください。
コンサルティング・ビジネス研究会 中小企業診断士 上野 光夫
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