今回は、ものづくり補助金の14次締切分から追加された「大幅賃上げに係る補助上限額引上げの特例」について詳しくご紹介します。この特例は、10月1日からの最低賃金引上げに伴い、大幅な賃上げを予定している事業者にとっては大変有益な内容です。ぜひ最後までお読みください。
目次 |
1.ものづくり補助金の制度概要
2.「大幅賃上げに係る補助上限額引上げの特例」とは 3.「大幅賃上げに係る補助上限額引上げの特例」を受ける要件 4.まとめ |
「ものづくり補助金」とは、大型の機械設備の導入やシステムの構築など中小企業の設備投資を支援する補助金です。
近年では年間を通じて公募されています。
【基本情報】
■補助上限額:750万円~5,000万円(詳細は下表参照)
■補助率:2分の1 または 3分の2
■補助対象経費:機械装置費、システム構築費、技術導入費、外注費 他
■基本要件:下記①~③を全て満たす3~5年の事業計画を作成すること
①会社の付加価値額(※1)が年平均3%以上増加
②給与支給総額(※2)が年平均1.5%以上増加
③事業場内最低賃金(※3)が地域別最低賃金+30円以上
※1 営業利益・人件費・減価償却費の合計
※2 役員および全従業員に支払った給与等
(給料・賃金・諸手当・賞与・役員報酬は含み、福利厚生費・法定福利費・退職金は除く)
※3 補助事業の実施場所(設備を設置する工場等)で働く正社員の中の最低賃金(時給)
ものづくり補助金の補助上限額や補助率は、申請する枠や従業員規模によって異なります。
大幅な賃上げに取り組む事業者に対しては、従業員規模により補助上限額が100万円~1,000万円上乗せされます。
【ものづくり補助金(16次公募)の全体像】
申請枠 | 従業員数 | 補助 上限額 |
大幅賃上げへの 補助上限上乗せ |
補助率 | |
通常枠 デジタル枠 |
5人以下 | 750万円 | 100万円 | 2分の1 3分の2 (※4) |
|
6~20人 | 1,000万円 | 250万円 | |||
21人以上 | 1,250万円 | 1,000万円 | |||
回復型賃上げ |
5人以下 | 750万円 |
― |
3分の2 |
|
6~20人 | 1,000万円 | ||||
21人以上 | 1,250万円 | ||||
グリーン枠 | |||||
エントリー |
5人以下 | 750万円 | 100万円 | ||
6~20人 | 1,000万円 | 250万円 | |||
21人以上 | 1,250万円 | 1,000万円 | |||
スタンダード類型 |
5人以下 | 1,000万円 | 100万円 | ||
6~20人 | 1,500万円 | 250万円 | |||
21人以上 | 2,000万円 | 1,000万円 | |||
アドバンス |
5人以下 | 2,000万円 | 100万円 | ||
6~20人 | 3,000万円 | 250万円 | |||
21人以上 | 4,000万円 | 1,000万円 | |||
グローバル 市場開拓枠 |
― |
3,000万円 |
― |
2分の1 3分の2 (※4) |
※4 原則は2分の1ですが、小規模事業者や再生事業者、デジタル枠は3分の2
補助上限額の上乗せを申請する事業者は、基本要件に加えて、下表の追加要件をすべて満たす3~5年の事業計画を作成する必要があります。追加要件を満たさない場合や、従業員がいなくなった場合には、上乗せ分の補助金の返還が求められることに注意が必要です。
【特例を受けるための追加要件】
要件 |
基本要件 |
特例を受けるための |
①付加価値額の増加率 | 年平均3%以上 | 同左 |
②給与支給 総額の増加率 |
年平均1.5%以上 |
基本要件に加え、 年平均4.5%以上増加=年平均6%以上増加 |
③事業場内 最低賃金 |
地域別最低賃金+30円以上 | 左記に加え、毎年45円以上を増額させる(※5) |
要件を達成でき |
②給与支給総額要件が3~5年の事業計画期間終了時点で未達の場合、または③最低賃金の増加目標が計画期間中の毎年3月末時点で未達の場合、補助金交付額の一部返還が求められる | 追加要件を達成できなかった場合、上乗せ分の補助金額の返還が求められる |
※5 事業場内最低賃金の考え方
「③事業場内最低賃金」の追加要件については、毎年、前年度の時給に対して+45円以上の賃上げが必要となる点に注意が必要です。(例)東京都の場合、10月1日から最低賃金が1,113円になったので、たとえば、応募時点の事業場内最低賃金が1,200円であれば、基本要件(+30円)を満たすことになります。加えて、追加要件として毎年45円ずつ賃上げをする必要があります。
年度 |
前年度の時給 |
賃上げ額 |
事業場内 |
応募時点 | ― | ― | 1,200円 |
1年後 | 1,200円 | 45円 | 1,245円 |
2年後 | 1,245円 | 45円 | 1,290円 |
3年後 | 1,290円 | 45円 | 1,335円 |
4年後 | 1,335円 | 45円 | 1,380円 |
5年後 | 1,380円 | 45円 | 1,425円 |
設備投資を計画し、かつ大幅な賃上げを予定している事業者は、ものづくり補助金で補助上限額引上げの特例を受けられます。特例を受けるには、追加要件を満たす事業計画を作成するほか、補助金受給後も要件達成の義務があります。補助金返還という事態にならないようなマネジメントが欠かせません。
コンサルティング・ビジネス研究会では、ものづくり補助金の申請書類の作成支援サービスを行っています。
詳しくはものづくり補助金のページをご覧ください。
コンサルティング・ビジネス研究会 五十嵐 直人(中小企業診断士)
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