今回は、代表者交代やM&A などの事業承継をきっかけとした新しいチャレンジや、チャレンジを前提とする前向きな廃業の際に活用できる「事業承継・引継ぎ補助金」をご紹介します。最近 M&A を実施した事業者様や、新たに代表者となった方、また専門家を活用した M&A を予定している事業者様は、ぜひお読みください。
目次 |
1.事業承継・引継ぎ補助金とは?
2.3つの事業区分 3.活用事例 4.まとめ |
高齢化が進むなか、後継者の決まっていない中小企業者が増えています。事業承継・引継ぎ補助金は、そうした社会背景をうけて、代表者交代や M&Aをきっかけとした新たなチャレンジや、経営資源の引継ぎ、前向きな廃業を検討中の中小企業者等を後押しする補助金です。国の「中小企業生産性革命推進事業」の一環であり、単に事業承継や経営資源の引継ぎを行うだけでなく、事業承継や経営資源の引継ぎを新たな成長の機会とすることが重要になります。
事業承継・引継ぎ補助金は第7次までの募集が終了しています。令和5年度補正予算案で公表されている第8次以降の内容は、第7次のものと大きな変更はありません。そのため今回は、第7次募集の内容をもとに解説します。
事業承継・引継ぎ補助金には、「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ」の3つの事業区分があります。
(1)経営革新事業
事業承継をきっかけとして経営革新を図る中小企業者等に対して、その取り組みに要する経費の一部が補助されます。経営革新とは、新商品・サービスの開発・生産・提供や、商品・サービスの新たな生産・販売・提供方式の導入などの新たなチャレンジをさします。さらに経営革新は、創業支援型(Ⅰ型)、経営者交代型(Ⅱ型)、M&A型(Ⅲ型)の3類型に分かれます。
創業支援型は経営資源を引き継いで一定期間内に創業した場合に、経営者交代型は親族や従業員への事業承継を行った場合に、M&A型は組織再編等が行われた場合に、利用できます。対象となる経費は、経営革新を行う際の設備投資や販路開拓にかかる費用や廃業費等です。補助率・補助金額は以下のとおりです。
類型 | 補助率 | 補助金額 | 対象となる経費 |
創業支援型 |
2分の1以内
または 3分の2以内 (※1) |
下限額100万円 上限額600万円 または 800万円 (※2) 廃業費上乗せ +150万円 (※3) |
【事業費】 店舗等借入費、設備費、謝金外注費、原材料費、旅費、 委託費、広報費 など【廃業費】 廃業支援費、在庫廃棄費 解体費、原状回復費 など |
経営者交代型 |
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M&A型 |
※1 物価高の影響による営業利益率の低下など一定条件に該当する場合は、補助金額600万円以内までの補助率が3分の2以内に引き上げられます
※2 一定額以上の賃上げを実施する場合は、補助上限額が800万円まで引き上げられます
※3 廃業・再チャレンジ事業と併用することができ、この場合は経営革新事業の補助上限額に150万円上乗せされます
(併用する場合、廃業・再チャレンジ事業での申請は不要)
(2)専門家活用事業
M&Aにより経営資源の引継ぎを行う予定の売り手・買い手に対し、依頼する専門家の経費の一部が補助されます。活用する専門家は、中小企業庁の「M&A支援機関」に登録されたFA(ファイナンシャルアドバイザー)や税理士・公認会計士・中小企業診断士等の専門家、M&A専門業者である必要があります。専門家活用は、経営資源の引継ぎにおける立場によって、さらに買い手支援型(Ⅰ型)、売り手支援型(Ⅱ型)の2類型に分かれます。
対象となる経費は、専門家への委託費、謝金、旅費、外注費等です。委託費には、専門家へ支払う着手金、マーケティング費用、成功報酬、デューデリジェンス費用等が含まれます。補助率・補助金額は以下のとおりです。
類型 | 補助率 | 補助金額 | 対象となる経費 |
買い手支援型(Ⅰ型) | 3分の2以内 |
下限額50万円 廃業費上乗せ |
委託費、謝金、旅費、外注費、システム利用料、保険料、廃業費 |
売り手支援型(Ⅱ型) |
2分の1以内
または 3分の2以内 (※4) |
※4 売り手支援型で、物価高の影響等による営業利益率の低下など一定の条件に該当する場合は、補助率が3分の2以内に引き上げられます
※5 補助事業期間内に経営資源の引継ぎが実現しなかった場合は、補助上限額が300万円以内に引き下げられます
※6 廃業・再チャレンジ事業と併用することができ、この場合は専門家活用事業の補助上限額に150万円上乗せされます
(併用する場合、廃業・再チャレンジ事業での申請は不要)
(3)廃業・再チャレンジ事業
既存事業を廃業し、再チャレンジに取り組む中小企業者等に対して、廃業にかかる経費の一部が補助されます。
M&Aに取り組んだものの事業を譲り渡せなかった事業者による「再チャレンジ申請(単独申請)」と (※7)(※8)、経営革新事業、専門家活用事業と併せて申請を行う「併用申請」があります。
※7 再チャレンジ申請の場合、2020年以降にM&Aに着手し、6か月以上取り組んでいることが必要です
※8 再チャレンジ申請の場合は、補助事業期間内に既存事業の廃業を完了する必要があります
対象となる経費は、廃業支援費(廃業に関する登記申請手続きのために司法書士等へ支払う委託費、清算業務に関与する従業員の人件費等)、在庫廃棄費等です。補助率・補助金額は以下のとおりです。
申請の種類 | 補助率 | 補助金額 | 対象となる経費 |
再チャレンジ 申請 |
3分の2以内 |
下限額50万円 |
廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費用 など |
併用申請 |
2分の1以内
または 3分の2以内 |
※9 併用申請の場合、廃業・再チャレンジ事業での申請は不要です
※10 併用申請の場合、「経営革新」「専門家活用」の補助率に従います
事業承継・引継ぎ補助金の公式サイトでは、事業区分や類型に応じた活用事例が掲載されています。
(https://jsh.go.jp/case-study/)
一例として、事業承継により親族経営から経営者交代を果たした新潟県の食品製造業の事例があります。同社では、冷蔵設備の保管量が製造工程のボトルネックとなっていたため、事業承継を機に本補助金を活用して業務用冷蔵庫を増設しました。その結果、生産性向上に繋がっただけでなく、新社長が新商品開発や販路開拓を進める体制が整い、新たなチャレンジに成功しています。公式サイトには、この他にも様々な事例が掲載されており、経営革新の具体的なイメージをつかむ手掛かりになります。
経営者の若返りにより増収・増益企業が増え、経済活性化に寄与することが期待されています。そのため、事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継やM&Aを通じて経営革新を進めたい事業者様が活用しやすい内容となっています。
コンサルティング・ビジネス研究会には、事業承継・M&Aに詳しい専門家も在籍しています。経営者交代やM&Aを機に、新たなチャレンジに取り組みたい事業者様は、お気軽にお問い合わせください。ホームページでも事業承継・引継ぎ補助金を紹介していますので、ぜひご覧ください。
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新型)
https://cb-ken.com/service/shoukei/
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)
https://cb-ken.com/service/senmonka-katsuyo/
コンサルティング・ビジネス研究会 齊藤 慶太(中小企業診断士)
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