M&Aを考える前にやっておくべきこと

 近年、後継者不在の中小企業にとって、M&Aの手法による第三者への事業承継が増加しています。一方で、M&Aが成立しなければ事業承継はできません。M&Aが成立するためにやっておくべきことを整理していきましょう。

≪2020年版 中小企業白書≫より 

目次

1.売りやすい会社の特徴は
2.売りやすい会社にするためには
3.高く売れる会社にするためには
4.まとめ

1.売りやすい会社の特徴は

 自社に魅力があることが売りやすい会社の条件となりますが、買い手がその魅力を認めることが必要となります。そこで、売りやすい会社の特徴を見ていきます。
・業界について・・・買い手との相乗効果が見込める、定期収入がある、成長が見込まれる、寡占でない、許認可が必要、人手が必要
・業績について・・・経常的に黒字を確保
・財務内容について・・・資産超過、適正な借入、高い自己資本比率
・社内体制について・・・組織的、法令順守、公私の区別がある
・技術やノウハウについて・・・独自性がある


反対に、売れにくい会社の視点と特徴を見ていきます。
・業界について・・・買い手との相乗効果が見込めない、下請け、成長が見込めない、寡占
・業績について・・・一時的でない慢性的な赤字
・財務内容について・・・債務超過、粉飾決算、簿外や潜在的な負債あり
・社内体制について・・・経営者に依存、管理が甘い、公私混同
・技術やノウハウについて・・・模倣されやすい


買い手との相性もありますが、総じて、財務内容が優良である、独自性がある、組織的であることが売りやすい会社の特徴と言えます。売りやすい会社の特徴のすべてにあてはまる必要はありませんが、一つでも多くあてはまることが望まれます。

≪2018年版 中小企業白書≫より

2.売りやすい会社にするためには ~経営状況や経営課題等の見える化~

 前項で売りやすい会社の特徴についてみていきましたが、自社についてはいかがでしょうか。そこで自社の状況把握が必要となります。具体的にはどのような点を把握すべきか見ていきます。
・会社資産と経営者個人の資産について・・・個人資産の事業や担保への利用がないか、金銭等の貸借がないか、経営者保証がいくらあるか
・株主構成と株式について・・・分散されていないか
・資産負債と時価の把握・・・含み損益や事業に不要な資産負債がないか
・損益について・・・部門別や商品別で管理や把握がされているか、不良品などが棚卸資産に含まれていないか
・適切な会計処理について・・・中小企業の会計に関する指針などに従っているか
・強みについて・・・他社ではなく自社が選ばれている要因を認識しているか
・知的資産について・・・どのような取引先がいるか、どのような技術やノウハウがあるか、どのような知的財産権や許認可を有しているか
・組織体制について・・・経営者の一存に左右されていないか、未払残業代が潜在していないか


見える化をすることで、自社の経営状況や経営課題等を把握し、売りやすい会社にすることができます。見える化は、経営者自らの理解促進に留まらず、関係者に対して自社の状態を開示することでもあります。そのため、独善的ではなく多面的に評価がされる必要があります。

≪中小企業庁 事業承継ガイドライン≫より

3.高く売れる会社にするためには ~企業価値や事業価値を高める磨き上げ~

 M&Aをするにあたって、いくらで売れるのかは気になるところです。会社を手放した後の生活に関わることはもちろんのこと、事業に対する思い入れがあるほど、自社にどれだけの価値があるのか、これまで取り組んできたことがどれだけ評価されるのか、その価値や評価が売買金額で表現されるためです。価値や評価が上がる会社、つまり、高く売れる会社になるためには、前項の「売りやすい会社にするためには」で申し上げた点を強化し、磨き上げることが一番です。その中でも重要な点を取り上げていきます。
・本業の競争力について・・・ 強みを作り弱みを改善します。強みの源泉となっている商品・サービス等の拡充、技術力を活かした製品の高精度化・短納期化、人材育成や新規採用等を通じた人的資源の強化などに取り組みます。
・経営体制の整備について・・・M&Aが行われても買い手が円滑に事業運営を行えるようにします。職務権限の明確化と業務権限の委譲、各種規定類やマニュアルの整備、ガバナンス・内部統制の向上、余剰資産負債の処分など経営資源のスリム化に取り組みます。
・経営強化のための取組について・・・財務状況をタイムリーかつ正確に把握します。その財務状況を経営者自らが利害関係者に説明することで、資金調達力を強化し、取引拡大の可能性が広がります。


磨き上げは、業績改善や経費削減にとどまらず、さらなる強みを創出する好循環を生み出す効果があります。

4.まとめ

 自社の見える化や磨き上げは、M&Aのためだけでなく自社の経営にも効果を及ぼします。また、M&Aは適切なタイミングを逃してしまうと買い手を失う恐れがあります。そのためにもM&Aを考える前に、自社の見える化、磨き上げに努める必要があります。

≪中小企業庁 事業承継ガイドライン≫より

執筆者

市山優(税理士・中小企業診断士)
市山経営税理士事務所・株式会社I.M.T.コンサルティング
https://masaru-xyz.tkcnf.com/index

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