人手不足解消のために特定求職者に注目

 労働人口減少に伴い深刻な人手不足状態が続いています。その一方で、就職の機会が乏しく安定した職に就けない人もいます。厚労省はそうした人を「特定求職者」と位置づけ、事業者に対して助成金を支給して雇用を促進しています。本稿ではその中から3類型を紹介し、中小企業が人材を確保するヒントを提供します。

人手不足解消のために特定求職者に注目

目次
1.高年齢者、母子家庭の母など「特定就職困難者」

2.いわゆる第二新卒など「三年以内既卒者」

3.就職氷河期で正規雇用を逃した「長期不安定雇用者」

4.まとめ

1.高年齢者、母子家庭の母など「特定就職困難者」

 売り手市場と言われる就職・転職環境の中でも、求人が少なく就職困難な人を「特定就職困難者」と呼んでいます。具体的には下記の人たちです。
 ①高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母など
 ②身体・知的障害者
 ③重度障害者(45歳以上の障害者を含む)
 こうした人々は労働時間や内容に制約がありますが、特定分野で非常に高いスキルを持っている人も少なくありません。それぞれの事情を理解した上で職場環境や仕事の与え方を工夫すれば十分な戦力になりえます。
 それでも雇用者としては不安を持つことも事実であり、実際に求人が少ないことがそれを物語っています。雇用者の不安や負担を軽減するために、厚労省は「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」を用意しています。
 本助成金は、特定就職困難者を1年以上雇用した場合も支払った給与のうち一定額を国が支給するものです。事業者が中小企業の場合の支給額は半年を1期として下表の通りです。

企業区分 対象者 支給額 対象期間 支給方法
短時間労働者以外 高年齢者・母子家庭の母等 60万円 1年 30万円×2期
重度以外の障害者 120万円 2年 30万円×4期
重度障害者 240万円 3年 40万円×6期
短時間労働者 高年齢者(60~65歳) 40万円 1年 20万円×2期
重度を含む障害者 80万円 2年 20万円×4期

 本補助金は、平成28年4月から「トライアル雇用助成金」と併用できるようになりました。
 トライアル雇用助成金は職業訓練等を受けることが困難な休職者を3カ月トライアル雇用する場合に給与の一部を支給する制度です。母子家庭の母をトライアル雇用終了後に正規雇用した場合は、トライアル雇用補助金と併せて特定求職者雇用開発助成金も支給されます。(一部減額あり)

2.いわゆる第二新卒など「三年以内既卒者」

 新規学卒で入社した会社をすぐに辞めてしまう若者が増えています。中には入社式数日で退職したという極端な事例も報告されています。また、就職活動がうまくいかず、内定を取れないまま卒業してしまう学生もいます。
 日本における大企業の採用は、いわゆる「新卒一括採用」が大部分であり、「新卒」の肩書を失った彼らの就職機会は著しく減少します。就業期間が短い(または無い)ため、中途採用に応募できるほどのスキル・経験もありません。
 「特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)」は、既卒者を新卒枠で雇用した事業者に支給されます。支給額は下記の通りです。

企業区分 対象者 1年定着後 2年定着後 3年定着後
中小企業 既卒者 50万円 10万円 10万円
高校中退者 60万円 10万円 10万円
中小企業以外 既卒者 35万円
高校中退者 40万円

 新卒の就職活動は年ごとの環境変動が激しく、別の年なら有名企業に就職できた優秀な学生が、卒業年はたまたま経済状況が悪くて苦労するようなことが発生します。またイメージ先行で就職した結果、業務内容や処遇にミスマッチがあり退職を選ぶ人も多くなっています。
 こうした若手求職者の中には優秀な人材も多く、大企業で「第二新卒」として受け入れる動きが広がっていますが、中小企業もこうした人材に注目する必要があります。

3.就職氷河期で正規雇用を逃した「長期不安定雇用者」

 1993年から2005年まで「就職氷河期」と言われた時代がありました。1990年のバブル崩壊とその後の景気後退を受けて企業が新規採用を抑制したため、新卒者の就職活動が困難となり、フリーターや派遣労働といった非正規雇用者が増加しました。
 その後「失われた20年」と言われるデフレ経済の中、正社員になれる者は少なく、非正規雇用のまま何度も離職・転職を繰り返す不安定な就業を続けているのが実態です。
 こうした就職氷河期に就職の機会を逃がした求職者を正社員として雇用した事業者には「特定求職者雇用開発助成金(長期不安定雇用者雇用開発コース)」が支給されます。

企業区分 支給期間 最初の6カ月 以後の6カ月 支給額
中小企業 1年 30万円 30万円 60万円
中小企業以外 1年 25万円 25万円 50万円

 長期不安定雇用者の中には、正社員と同等の質・量の仕事をしていたにも関わらず処遇に差があり、時には一方的に雇止めや解雇された人も多数いると言われています。経験職務によっては即戦力として期待できる人材を採用できる可能性もあり、人手不足に悩む中小企業によっては魅力ある求職者と言えます。

まとめ

 人手不足の対策として特定求職者の雇用は一つの選択肢となります。優秀で経験豊富な人材が、やむを得ない事情やたった1回のミスマッチで埋もれてしまうのは大変な損失です。雇用に関する助成金は他にも多数ありますので、本サイトのカテゴリ「補助金・助成金」も参考にしてください。

執筆者

浜崎正和(中小企業診断士)

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