プレイヤーが固定化していた葬儀業界が大きく変化しています。
市場トレンド、現状の競争環境、今後のM&Aのトレンドを解説します。
1.葬儀業界の市場トレンド
2.葬儀業界の現状
3.葬儀業界のM&Aトレンド
4.まとめ
内閣府「令和2年度版高高齢社会白書」によると、日本の総人口は今後も減少の一途をたどる中、死亡者数は2040年まで増加が続くと予想されています。
出典:「令和2年度版高齢社会白書」より
このような背景を受けて、葬儀の件数は増え続けていくと考えられます。
これまでの葬儀は、故人が生前から関わりのあった仕事関係者や友人などに加え、家族の知人や近隣住民など多くの方々に訃報を知らせ、葬儀に会葬いただくスタイルが一般的でした。
近年、葬儀スタイルが大きく変化しています。長寿化がさらに進み、「100歳まで生きる時代」になっています。高齢になれば、介護や認知症を伴うことも多く、かつての友人・知人との関係も薄れてきます。また、高齢世代は、「子供に迷惑をかけたくない」「お金をかけなくてよい」という思考が強く、子供世代は、「家族・親族だけでしっかり見送りたい」という思考が多勢を占めています。このような思考を背景として、葬儀を行う際は、遺族やごく親しい人だけで行う「家族葬」が好まれるようになっており、今後もその傾向は加速すると思われます。
特に、核家族での生活スタイルが定着し、近隣住民との関係が希薄になっている都市圏は、地方都市に比べてその傾向が強いです。
さらに、近年、一人暮らし高齢者が増加しており、「孤独死」問題が深刻化しています。上記のような故人を弔う形態として、遺体を24時間安置後に火葬する「直葬」も増加するでしょう。
上述のような時代背景、ライフスタイルの変化のもと「形式的な葬儀より、コンパクトな葬儀で適度な費用に抑えたい」との意識の変化もあり、葬儀単価の低下傾向は今後も強くなると予測されます。
葬儀はもともと自宅や隣組やご近所で行う風習からスタートしています。その後、自宅で祭壇の飾りつけや幕張り、供花などを一手に請け負う葬祭業が台頭してきました。
昭和50年代前後から司会なども入れるようになり、現在の式進行の形が作られました。また、平成の時代に入りますと、葬儀はお寺や自宅や集会所などから葬儀社の会館で行うことが一般化してきました。近年では、インターネットから入電してきた葬儀を契約している葬儀社に依頼し、紹介料を得る紹介会社が台頭してきています。
葬儀業界は、大きく3つのグループに分かれます。
1つ目は、農協や生協などの共同組合です。2つ目は、冠婚葬祭互助会です。3つ目は、専門葬儀社です。その中でも専門葬儀社が業界の3分の2を占めると言われ、そのほとんどが中小事業者です。以前は、商圏毎に棲み分けが出来ていましたが、近年は、冠婚葬祭互助会及び資本力のある大手葬儀社による越境出店がさかんに行われるようなっています。
上述の通り、インターネット紹介会社の台頭や商圏内の競争激化により地場の専門葬儀社の利益が落ち込み、企業体力を消耗しているのが実態です。
業界全体としてインターネット紹介会社が台頭していくと予測されます。専門葬儀社は、直接依頼が減り、売上高や葬儀施工件数が同じでもネット経由での紹介料の発生により利益は落ち込み、企業体力が失われていくと予測されます。
企業内部面では、後継ぎ不在を解消すべく生え抜きの社員を次世代の経営者にするにしても、ここ数年での中小専門葬儀社を取り巻く環境変化は早く、生え抜きの社員を経営者として育てていくには時間が足りません。
今後、資本のない中小企業専門葬儀社が淘汰され、大企業の寡占化が進み、インターネット紹介会社への隷属化が進むと予測されます。
上述の通り、葬儀業界は商圏における地盤が強い地域密着産業です。買い手サイドになる冠婚葬祭互助会及び資本力のある大手葬儀社にとっては、新たな商圏への出店の迅速化、売り手会社の顧客データベースの有効活用による収益向上が見込めます。
また、近年では鉄道会社など「人」が集まりやすいインフラや物販事業(飲食、生花、返礼品、仏具)等の異業種からの進出も増加しています。このような異業種からの進出事業者も買い手サイドに回ることにより葬儀業界のM&Aは活性化するものと思われます。
「誰もが必ず訪れる死」その死をどのように見送るのか?
葬儀は、「故人、お家族のニーズに合わせた葬儀」へと益々多様化しています。
そして、業界自体もインターネットメディアの台頭、異業種からの進出、冠婚葬祭互助会及び資本力のある大手葬儀社によるM&Aなど・・・・近年大きく変化しています。
このような環境変化に適応していくのか、淘汰されるのか、飲み込まれるのか?
葬儀業経営者に寄り添う経営支援者が益々必要になる業界ではないでしょうか?
竹澤 薫
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