「経営力向上計画」を策定し 運送業の課題を改善する

 経営力向上計画とは、中小企業の経営マネジメント力や、経営力の向上を目指すために策定する計画のことです。この計画に対し、国から認定を受けた事業者は、税制支援や金融支援を受けることができます。

 貨物自動車運送事業は、国内貨物輸送の4割強を担う重要な産業です。しかし、人手不足、運送効率の低下等の課題が山積しています。今回は課題の解決をサポートする経営力向上計画申請についてご紹介します

「経営力向上計画」で運送業の課題改善

目次
1.貨物自動車運送業の課題とは?

2.課題解決の方策

3.「経営力向上計画」とその認定で得られるメリット

4.まとめ

1.貨物自動車運送業の課題とは?

貨物自動車運送業(以下、運送業)は今一番注目度の高い業種かもしれません。Amazonや楽天を代表とした通信販売が普及し、また製造業のJust in time納入が一般化する中で、配送を担う運送業はますます重要性を増しています。その結果、運送業は平成2年の規制緩和後事業者数が1.6倍に増加しています。

 

一方、荷主からの要求は厳しくなる一方で、課題も増えています。荷主都合による荷待ち時間等の負担増大とそれに伴う長時間労働、顧客ニーズに合わせた多頻度・小口配送による運送効率の低下の2点が特に大きな課題となっています。長時間の過酷な労働と運送効率低下による収益の悪化=低賃金は、結果として深刻な人材不足と採用難、労働者の高齢化、極端に低い女性比率という問題も招いています。

 

運送業者の99%が中小企業者(資本金3億円以下および従業員300人以下)です。荷主への交渉力が限られる中で、経営力を向上し収益を改善する事、荷主との取引環境を改善することは必須になってきています。

運送業の営業利益率

運送業の労働環境

 

2.課題解決の方策

では、1で上げた課題の解決にはどのような方策が必要でしょうか?

国土交通省の「貨物自動車運送事業部門に関わる経営力向上に関する指針」では次の2点を挙げています。

  1. 貨物自動車運送事業の経営力向上には、従業員や貨物自動車の投入量当たりの収益を改善する事が重要である。
  2. そのためには、荷待ち時間の削減に向けた荷主等との取引環境の改善、事業の共同化やITの利活用による運送の効率化、事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成等を行うことが必要である。

この指針を実施するために下表の実施方法が提起されています。

経営力向上のための実施方法

具体的な取り組みの事例として次のような事例が公表されています。

<事例1>
株式会社聖亘トランスネットワーク(貨物自動車運送事業/国土交通省認定/神奈川県)

自社独自開発の配送システムを駆使し、首都圏向けの輸送を展開している運送事業者が、更なる作業効率化、労働時間の短縮を目指し、

  • 最適な車両を検索できる機能を既存のシステムに新たに追加するとともに、
  • 配送システムをネットワーク化することにより、事業者同士の連携や荷主との情報共有を行うことで、貨物自動車運送事業の経営力を向上させる。

〈具体的な取組〉

  1. 既存の配送システムではリアルタイムに個車ごとの稼働状況を把握することができるところ、更なる輸送の効率化を実現するため、急な輸送依頼に対して、最適な車両を検索できる機能を新たに追加する。
  2. 配送システムをネットワーク化することにより、荷物情報や車両情報を共有し、他の物流事業者間や物流子会社との共同輸送を実施する。また、荷主とも車両情報を共有することで、更なる輸送の効率化を図る。

 

<事例2>
有限会社南串陸運(貨物自動車運送事業/国土交通省認定/長崎県)

地元の農協を主たる荷主として、農産物を関東・関西方面の各市場に輸送している運送事業者が、従業員の更なる資質向上及び作業効率化を目指し、

  • 従業員の資格取得を支援する制度を創設するとともに、
  • 業務に係る実施方法を標準化するために社内各部門ごとにマニュアルを作成することで、貨物自動車運送事業の経営力を向上させる。

〈具体的な取組〉

  1. 荷役作業の効率化、従業員のスキルアップを目的として、運行管理者基礎講習やフォークリフト運転技能講習等の受講に関して、受講料全額を会社で負担する。
  2. 社内にある「輸送部門」「荷役部門」「事務部門」「整備部門」の各部門ごとに、マニュアルを作成する。それにより、各部門で暗黙知となっている事柄を文章・図表・数値として記載し、周知・情報共有することで、「ムダ・ムラ・ムリ」のない業務の実現を図る。
3.「経営力向上計画」とその認定で得られるメリット

 経営力向上計画とは、経営マネジメント力の向上による、中小企業・小規模事業者・個人事業主の経営力・生産性向上のため計画です。上記で述べた公表事例のような取組を具体的な計画をまとめた経営力向上計画を事業所管大臣に申請し、その計画が認定されると支援措置を受けることが可能となります。政府が中小事業者の経営力向上のサポートを行ってくれるわけです。

<「経営力向上計画」策定のポイント>

  1. 「経営力向上計画」の認定を受けられる「中小事業者等」の規模は資本金10億円以下もしくは従業員数2,000人以下です。
  2. 「経営力向上計画」では ①企業の概要、②現状認識、③経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標、④経営力向上の内容など簡単な計画等 を策定します。
  3. 貨物自動車運送業においては、次の①~④の目標とする指標及び数値のいずれかを2%以上改善(3年間の計画の場合)する事が必要になります。①運転手の平均労働時間、②積載効率、③実車率、④実働率

<支援措置>

  1. 生産性を高めるための設備を取得した場合、固定資産税の軽減措置(3年間1/2に軽減)や中小企業経営強化税制(即時償却等)により税制面から支援
  2. 計画に基づく事業に必要な資金繰りを支援(融資・信用保証等)
  3. 認定事業者に対する補助金における優先採択

 

経営力向上計画を策定する過程で、自社の課題の洗い出しや具体的な目標の策定が行えるため、認定を受けると得られる支援措置だけでなく、経営の見直し・改善に多くのメリットがあります。厳しい環境におかれている貨物自動車運送業の経営者が自社の経営力を向上するために是非活用して欲しいと思います。

まとめ

「経営力向上計画」の策定を通じて、自社の課題の洗い出しと具体的な目標策定が可能です。また、認定を得る事で多くの支援措置を受ける事が可能です。

執筆者

コンサルティング・ビジネス研究会 執筆チーム(中小企業診断士)

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